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たとえ在宅医療が広まっていくとしても、実際に病院で亡くなる方は、必ずいるわけですので、やはり、その死を迎えられる患者さんを持つような病院であれば、患者さんにとって、また家族にとって、QOL(生活の質)をしっかりと提供できるような専門のチームが必要になってくると思います。
すべての病院にICUやERがあるのと同じ理由で、緩和ケアのチームは、医療機関ごとにかならず必要だと思います。 とくに、B博士が「コミュニケーション技術」を「緩和ケア技術の進歩の一つ」として、挙げたことが印象的でした。
日本では多くの患者さんや家族が、医師の告知、とくに、がん治療一辺倒から緩和ケア重視の姿勢にシフトするときの医師の言葉に傷ついた、という体験を持っているわけですが、アメリカでは、そうした言葉の使い方、患者とのコミュニケーション能力を、「進歩させるべき技術」と位置づけ、それが以前よりも上達した、と自己評価しているのです。 日本でも、医師の技量のなかで、コミュニケーション能力を重視し、「緩和ケアにおいて進歩させるべき技術」「教育すべき技量」として位置づけ、レベルアップさせていってほしいものです。
そうなれば、多くの患者さんや家族が不必要に悲しまされたり、ショックを受けたりすることが少なくなっていくのに違いありません。 また、B博士の話では、アメリカのがん専門病院にあっても、がん治療をする医師たちは治療が手詰まりになってくると、患者や家族と向き合うことに不安を抱きがちだけれども、そんなときこそ緩和ケアチームがリーダーシップをとり、しかし、主治医にとって代わるのではなく、共にサポートすることで患者、家族を支えている、とのことでした。
患者さん、ご家族がしばしば訴えていたのは、やはりがん治療を支えてくれていた医師が、治療が困難になるにつれて疎遠になっていくことの辛さでした。 見放される、という言葉はそこから来ていました。
がんの不安を最初に分かち合い、共に闘ってもらった主治医に寄せる信頼は、大きいのです。 その点、MDがんセンターのように、主治医も傍にいてくれながら緩和ケアを受けられる、ということが徹底していることは、患者さん、ご家族にとって大きな安心につながることが容易に想像できます。

少しでも治療の可能性があれば、賭けてみたいのが患者や家族の心情です。 その可能性を一緒に探ってくれる主治医がずっと共にいる、ということは、闘いをあきらめない患者、そして家族の気持ちの大きな支えになってくれるからです。
一方、アメリカでもこれまで緩和ケアが軽視され、病院内に緩和ケアチームが整備されていないケースも多かった、とのことでした。 アメリカでは、もともと緩和ケアが、在宅ケアを中心に発展してきた歴史があり、病院の中では「治療至上主義」があったからのようです。
しかし、いまは大学での緩和ケア教育に力を入れ、緩和ケア専門医を育成していこう、と強化しつつあることもわかりました。 B博士の言葉を借りれば、五年から一○年で、ある程度の環境が整う、と見込んでいるわけです。
実際、一九九六年には、アメリカホスピス緩和ケア認定委員会による認定医試験が実施されるようになりました。 これまでにおよそ二○○○人が資格をとり、応募者は毎年二○%増の勢いで増えているそうです。
さらに、二○○五年六月には、オンコロジスト(がん専門医)を対象に、指導医を養成する教育プログラムが開始されました。 がん医療先進国のアメリカが、いよいよ緩和ケアの重要性を認識し、専門家育成のシステムを取り入れ、今後、発展させていく決意表明をした、といえます。
もちろん、そこで軸となっているコンセプトは、がん診断時からのがん治療と、同時に始まる緩和ケア、二つを兼ね備えた包括的がんケアという考え方です。 このプログラムに、日本からも二人の緩和ケアの専門家が派遣されました。
その一人が、癌研有明病院のM医師でした。 そして、その内容を参考に、日本でも同じ二○○五年の暮れ、第一回の教育セミナーが開催されました。
緩和ケア専門医の制度すら整っていない日本ですが、その形を整えるより何より、すでに緩和ケアを各地で実践している医師たちが、その経験と新しい技術を伝えていくことで、日本の緩和ケアの土台をつくっていこうという取り組みです。 二○○六年六月に成立した「がん対策基本法」。

その第一六条にはこうあります。 では具体的にどう充実させていくのか。
がん緩和ケアは、これまで述べてきたとおり、それを担う人たちの、患者や家族に向き合う姿勢に負うところが大きい領域です。 単に病院に機械を設置したり新しい薬を使えるようにしたりするだけでは、満足のいく緩和ケアができるはずがありません。
高いレベルの緩和ケアに取り組む専門家が増えていかなければ、いつまでたっても私たちの身近なところに緩和ケアがあり、病気と向き合うときに支えてもらえる、という環境をつくることができません。 苦痛をとってくれる緩和ケアのプロの必要性と育成、そのことを、私たちは、これから常に声を大にして訴えていく必要があるでしょう。
「国及び地方公共団体は、がん患者の状況に応じて癌痛等の緩和を目的とする医療が早期から適切に行われるようにすること、居宅においてがん患者に対しがん医療を提供するための連携協力体制を確保すること、医療従事者に対するがん患者の療養生活の質の維持向上に関する研修の機会を確保することその他のがん患者の療養生活の質の維持向上のために必要な施策を講ずるものとする」「早期からの」緩和ケアの充実が、一つの柱として明確に盛り込まれたのです。 画期的なことです。
これまで、日本の最先端のがん専門病院で、WHOのめざす「斜め線」の緩和ケア、つまり「緩和ケアをがん治療と並行して実践する」ということが、どのように行われているのか、それが患者さんやご家族の闘病にどのように反映されているのか、紹介してきました。 この新しい概念のがん緩和ケアは、日本では、いま緒についたばかりです。
「がん対策基本法」が成立し、早期からの緩和ケアの必要性が盛り込まれたいま、追い風に乗って、とにかく全国各地の医療機関が、これまでの遅れを取り戻し、さらに発展していってほしいものだと、心から思います。 今後、ますますさまざまなタイプの薬の開発が進み、がんに伴う苦痛の治療法の技術も進化して、緩和ケアのバリエーションが広がっていくだろうと期待されます。
「腹水を処理する腹腔静脈シャント」も、がんとの共存期間を延ばしてくれるのに一役かつてくれることでしょう。 まだ、どんな時期にシャントをつくったら、長期間のメリットが得られるのか、など明らかにされていない点も多々あります。
しかし、腹水がたまったらもう末期だ、と観念し、だるさを抱えつつ過ごし、たまったら腹水を抜く、その日々の繰り返し、という選択肢しかなかったことを思えば、一つの希望が出てきた気がします。 また、経皮的椎体形成術などの新技術。
骨転移した患者さんが、自分でトイレに行ったり、歩いたりできる生活を、少しでも長く送れるように支えようという、これまでより一歩進んだ緩和ケアです。 患者の闘病生活のレベルを上げてくれる取り組みとして、大いに期待したいものです。

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